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【第27回/締切りを作る】

発想を得る際、「寄り道の精神」はとても大切です。
アフターファイブ、会社から自宅に直行するような生活が続いていると、何も生まれません。
何か余計なことしてやろう…という遊び心は、表現活動の第一歩になくてはならないものです。

同時に私は、自分がぐうたらな男だということをよく知っています。
寄り道していて、そのぬるま湯的な安息に浸ってしまうこともあります。
また、発想のきっかけはつかんだものの、なかなか次の段階に進まずに、ずるずると日常に流されることもあります。
これらは、結果として充実した人生にはなりません。

そんなぐうたらな私にとって、大切なのは「締切りを作る」ことです。
ワタミグループ創業者・渡邉美樹さんの著書「夢に日付を!」の中に、以下のような文章があります。
「大切なのは、夢に日付を入れて、目の前の現実を変えること。」

一流の実業家には、芸術家たちに欠けている精神が溢れています。
私には、ここに書かれてあるような己に厳しい決断はなかなか出来ませんが、夢物語に酔いしれて締切りを作らない音楽家たちにうんざりした経験は、少なからず持っています。

先日、YouTubeで、逸見正孝さんの「伝説の」記者会見を見ました。
自分に残された時間を知り、その非情な現実を何とかして受け入れようと静かに語るその姿に、改めて胸打たれました。
当時の私は、社会の中核を担う大人の男性が亡くなった…というイメージでしたが、今や自分が逸見さんの年齢をとうに超えていることに気付いて、びっくりしました。
来年は、石原裕次郎さんの年齢になります。

お陰様で、まだまだ健康に恵まれています。
今日も寄り道せずに早く帰って寝よう…と思うようになるまで、もう少しジタバタしていたい気持ちです。

2012/11/01 杜哲也