column


【第34回/好きな理由】

「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」という曲があります。

私は、この曲をスティービー・ワンダーの歌声で知りました。
しかし、元祖は1965年録音のトニー・ベネット。
この曲に対する両者の解釈は、実に対照的です。
私は、しっとりと歌い上げるトニー・ベネットのバージョンを聴いた時、同じ曲とは思えないくらい驚きました。
そして、この曲がたまらなく好きになりました。

好きになるには、理由があります。
当初の私にとっては、スティービーの持ち歌である…ということだけでも十分な理由でした。
軽快なモータウン・ビートに乗った彼のボーカルは、今聴いても十分魅力的です。
しかし、トニー・ベネットのムーディーなボーカルで聴くと、曲自体の良さに胸打たれます。
中でも構成。
多くのスタンダード曲と同様32小節に収まりつつも、ここまで見事な構成を作れることに脱帽です。

作曲者を調べますと、Orlando Murden…、ん?、、、知らない。
どこを調べても、この曲以外に作品が残っていません。
作詞者のRonald Millerは、脚本家として若干の実績があるようなのですが、作詞家としてはこの曲に名前を残すのみ。
手垢のついていない小粋な事実に、「好き」の度合いが1ランクアップ。

次に、自分の体験と重ねます。
以前、レギュラー伴奏をしていた男性歌手がこの曲を持ち歌にしていて、私は毎回のようにお店で弾いていました。
この素晴らしい曲が、遠く離れた存在ではなく、私の人生にしっかりとご縁があったことを確認して、更に1ランク「好き」が上がります。

そうしたら最近、もうひとつ素敵な発見がありました。
歌詞のことです。
タイトルからお分かりのように、「人生でたった一度の素晴らしい出会い」を歌い上げています。
曲後半の決めゼリフに、以下のようなものがあります。
This is mine, you can’t take it.
「これこそ私のもの。もう誰にも渡さない。」…という感じでしょうか。

先日、これに別解釈があることをネット上で知りました。
その人は、大胆にも「can’t」を「can」に置き換えます(!)。
This is mine, you can take it.
「これは私のだから、あなたがとってってもいいよ。」
う~ん、なんと素晴らしい。これで完全にノックアウトです。

私は、名曲と呼ばれるものは、このように多くの人から「イジってもらえる」ものだと思っています。
「イジられた」結果、作り手本人も想像し得なかった新たな花が咲いて、「好きだ」と言ってくれる人がまた増えます。
そんな中に、音楽の素晴らしさを再確認します。
好きな理由なんて、人それぞれなのですから、、、。

2013/06/01 杜哲也

※上記の解釈は、ソウルシンガーのミトモタカコさんのブログに載っていたものです。とても感動したため、広めたいと思い引用させて頂きました。

《homeに戻る》