column


【第69回/お坊さん便】

ご存知、今話題の格安お坊さん派遣サービス。
アマゾンに登場したこの新商品についての議論は、「聖なるものを商業ベースに乗せてよいか」という所がポイントだと思います。
以下、私の考えです。

宗教と芸術は、人間の作り出した文化の中でも最高のものだと思います。
このふたつは、古来、人の営みがあれば地球上の如何なる所にも自然発生しています。
これ無しでは生きられない…という意味では食事や衣服と同じですが、宗教や芸術は価格競争の中で提供する物ではありません。

純粋で芸術的探究心に富む音楽家たちは、社会で生きていくために、不本意な営利演奏をしたり、割り切ったアルバイトをしたりしながら、自分の信ずる表現活動を続けています。
音楽界の重鎮が「その演奏まかりならぬ」と言ったところで、重鎮氏がその人たちの生活の面倒まで見てやれるわけではないでしょうし、何より見られる側も本意ではないでしょう。
その意味から音楽は、宗教よりも遙かに玉石混淆、雑多な文化なのです。

全日本仏教会が反対声明を出すのは、お立場上理解出来ます。
でも、だったら生命保険には反対声明出さないのですか。
宗教は正に死と向き合う存在。
身近な人の死を商売のネタにして巨額のお金を集める…、これって何?
人の命って、そういうものじゃないでしょ。
大きな敵には知らんぷり、相手が小さくて勝てそうなら吠える…という事ですか?

経済システムに新しい参入があれば、抵抗は付き物。
選ばれなければ淘汰されて行くだけ。
生命保険というシステムは、多くの人たちに支持された…というだけのお話なのだと思います。

…ここまで読んで頂いた方は、私がお坊さん便「賛成派」だと思われるでしょう。
お待ちください、これは私が宗教家でないから簡単に書ける話なのです。
命を懸けて仏教に打ち込んでいる人たちにとって、これはとても悩ましい問題だと思います。
だからこそ、私はこの報道にとても興味を持ちました。
この問題に結論なんてある訳もなく、もし議論が生まれなければその方が余程問題なのですから。

2016/05/20 杜哲也


《homeに戻る》