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【第75回/デイリーエクササイズ】

どんなお仕事にも、現場で使う技能を維持向上させる「日常的訓練」があると思います。
スポーツや音楽では、特にそれが大切。
怠惰な私でさえ、日々心掛けていることはあります。

ピアノの場合、それは比較的明確です。
スケール練習、フレーズの移調、メトロノームを使ったリズムトレーニング、コードの平行移動…などが、代表的なものだと思います。
いわば、ピアノという「道具」を使うお仕事なので、とにかくその「道具」を触り続けて慣れ親しむこと。
大切なのは、単に指の運動機能をトレーニングするのではなく、司令塔となる頭の中身との関連性。
クラシックの場合だと、それは譜面との関連性ということになるのでしょうが、こちとら譜面は使いませんのであくまで頭。
そんなデイリーエクササイズをした上で、「さて今回弾く曲は…」という段階に移るのだと思います。

では作曲の場合、どんな「日常的訓練」があるのでしょうか。

実はこれについて、未だによく分かりません。
例えば、毎日一問和声課題を解くとか短いフーガを書くとか…をやれば良いのかもしれませんが、怠惰な私にはどうも不向き。
何となくですが、音楽以外のところに答えがある気がしています。

曲を作る…という行為は、何もないところに命を誕生させるようなもの。
その意味では、女性が子供を産んで母になるのと似ています。
お腹に命を宿すために、女性たちはどんなデイリーエクササイズをしているのかと言えば、優秀な精子を獲得するために内面外面共に磨き上げることであり、決して、卵子自体を鍛えるわけではありません。

作曲のデイリーエクササイズは、五線紙に向かわない時間をどのように過ごしているか、日々どんな人たちとどんな会話をしているか、自分が生きる上で大切にしている指針は何か、…などなど、雲をつかむようなことの連続のような気がします。
ま、怠惰な私は、それを理由にしながらビールを飲むのデスガ…。

2016/11/18 杜哲也


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